みんなの日記帳

問わず語り4  No.369

波乱に始まった大学生活だったが、おんぼろ学生寮に暮らしたことにより、孤独感とは無縁に過ごすことができた。
ただし、不本意な大学への入学であったため、次の年、もう一度第1志望の大学を受験しようかなどと本気で考えてもいた。しかしながら当時は受験システムが変わった年で、翌年から国公立大学では共通1次試験というものが始まり、5教科7科目の試験を受けなければならなくなる。それまではほとんどの子公立大学が5教科5科目の試験を導入していたので、1年間で理科社会を1科目ずつ受験対策をするのは現実的ではない。現役の高校生は何年も前から5教科7科目の受験勉強をしているのだ。かなうわけがあるまい。しばらくの間、悶々とした思いがあった。いま、考えてみると人生にとって、どこの大学を出たかなどということはほとんど関係がない。それが、18歳にはわからなかったのだ。
そんな思いもゴールデンウイークを過ぎた頃にはすっかりとなくなり、そこの環境になじんでしまっていたのだ。
1978年6月12日夕方5時過ぎ、おいらは平たい将棋盤で、藤原君と将棋を察しながら「腹が減った。早く夕食にならないかなあ」などといっている時だった。寮全体が、ぐわんと持ち上げられた。世界が揺れている。オイラの頭には背にした本棚から落下した本がバシバシ当たるノで、両手で頭を抱えながら背中で本棚を押さえ、倒れてこないようにした。将棋盤からはは駒が一枚残らず落ちている。古い木造建築は不気味な音を立てゆがんでいる。逃げなければと思うが立ち上がれない。ふと見た窓の外では、バラバラと何かが降っている。屋根瓦だ。下手に逃げられたのなら河原の直撃を受けたかもしれない。後日「宮城沖地震」と名付けられた大地震だったのだ。
永遠に続くかと思った揺れがある程度収まった後、寮の本館に行くとカウンターから落ちた黒電話が受話器が外れているのにもかかわらずベルを鳴らし続けている。食堂の大きなテレビも幸いブラウン管は割れていなかったものの落ちて横倒しだ。テレビからは情報は入らない。たとえテレビが壊れていなかったとしても停電だから見られなかった。
そこで、オイラのスカイセンサー5800が大活躍。ACアダプターを持っていなく、常に乾電池を準備していたのが幸いした。ラジオを聞くと仙台市を中心に世の中大変なことになっている。けが人も多数出ているらしい。
こんな大騒ぎでは、実家の父母も心配しているかと思い、東9番町と新寺小路の角の電話ボックスに向かった。とチュに見えるお墓はほとんどがずれており、半分は倒れている。まるで空襲の後のように見えた。目的の電話ボックスはひしゃげ、平行四辺形につぶれかけていた。そのドアを無理矢理こじ開け受話器を取り、コインを入れたが、うんともすんとも言わない。ボックスを出て上を眺めると電話線が完全に切断されていた。これじゃつながらないはずだ。結局、実家の父母と直接話ができたのはこれから一週間以上たってからだった。
シナイノほとんどがデンキ、都市ガス、水道が止まり、ライフラインは完全にストップしていたらしい。らしいというのは、オイラの寮では、ガスが止まってもおじさんが古い石油コンロを使ってなんとか夕飯も食べさせてくれたし、トイレはもともとぽっとんだし午日付が変わる前に電気がついたのだ。テレビは壊れているから情報はスカイセンサー頼みだったのは仕方がない。
同日、遅く帰ってきた同室の佐藤君は、その日、ビアホールでアルバイトをしており、頭の上からジョッキが降ってくるので、幸いけがはなかったものの命の危険を感じたという。別の友人はアパートのトイレを流すことができず、排泄に困っていた。スーパーなどには食料品などを求めようと人が押しかけたが、入場を制限し、一人の客に灯りを持った一人の店員がついて買い物をさせた。勿論レジスターは使えないので、手動で計算をするが、すぐに売れるものがなくなった。
このとき、日本で一年間に売れる分のカセットコンロが、仙台だけで1週間で売り切ったと言われたが都市伝説だろうか。
翌日以降町に出てみるとあちこちの道路に地割れができており、壊れたり、中にはまるっきり横倒しに河川敷に落ちている家もあった。おんぼろ学生寮は、見かけより丈夫だったようで、瓦が落ちただけですんだが、夏休み明けまで青いビニールシートで屋根を覆っていた。また、不思議なことに大学の石造りの本館も概ね壊れていなかった。古い建物は意外としぶといのかな。
ブロック塀の下敷きになったりして、多くの人が亡くなったり、けがをなさったりしたが、寮生は全員無事だ。おじさんおばさんは、食品もなかなか手に入らず、ガスも使えない中で、いろいろと工夫してこいつらに腹一杯食わせてくれた。
災害は怖いが、人の温かみも感じた初夏であった。


くじらベーコン
2018/02/23

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